2016.12.15
「鉄は熱いうちに打て!」「幸運の女神は前髪しかない!」、これらは物事を行うに際し、最も適切な時期というものがあるという事を示した言葉です。
私達の携わる音楽教育の場におきましても、その時期を特定するのではなく、いつでも、或いはいつからでもという、長い目で見た場合の生涯学習という考え方が大切であるという事に、私は全く異論はありませんが、そうは言っても、やはり人生の中で一番効果が期待でき、伸びる時期はいつなのかということについては、多くの方々の興味・関心をひく所ではないでしょうか。
私が30年以上、多くの生徒達を指導してきて感じるところ、又は自分自身の過去をも振り返ってみて感じるところなどを、ここでは率直に述べてみたいと考えております。
まず第一に中学校の3年間、この期間があらゆる能力が一番伸びて開花する時だと、私は考えています。その中でも特に中学2年生、この1年間は過ごし方によっては、奇跡の1年間になる可能性があり、今までにも全く別人になって行くかの様な展開を、何度も目の当たりにしてきました。
1年生は新たな環境に順応していくために、かなりのエネルギーを消費していますし、3年生は受験にエネルギーを消費します。それに比べ、2年生は、そのどちらからも比較的自由で、思い切り物事に打ち込む環境を整え易いことが、まず最初の理由として考えられるのではないでしょうか。
そして体や心も、大人に向けて一番変化していく時でもあります。楽器を奏でる為に必要な体の方の条件もようやく整い始め、心の方も自我が発達してくる事により、表現者としての大切な考えや意志、そして美意識や自分らしくありたいという欲求なども、全く大人達を畏怖させる程に発達してくる時期だと言えましょう。ただ感受性などはまだまだ柔軟な年代であるので、良くも悪くもどうにでもなって行く、無限の可能性を秘めている状態であろうと思います。
それが高校生になると、もちろん伸びることは伸びるのですが、やや柔軟性に陰りが見え始めますし、大学生以降は思想性が深まって行くことはありますが、感受性の核の部分は、ほぼ固まり始めている様に私は感じています。
これらの事からも、私は「今がその時である。大いに夢を語り、最大限の努力をし、チャレンジせよ。その情熱さえあれば、必要な最大限のサポートも、必ずや得られるであろう!」と主張したいのです。大切な大切な中学3年間に、それまで一生懸命に音楽に打ち込んできた生徒が、目先の事や色々な様々な制約によって、逆に時間やエネルギーを奪われ、そうしている内に幸運の女神が通り過ぎてしまうのを、今まで何度も見て来ました。とても残念な気持ちを禁じえません。
次によく伸びる時は、小学5・6年、特に6年生ではないかと思います。幼少からスタートしたお稽古事が第一段階の完成を見る時期でもあります。
もちろん努力の習慣がここまでに身に付いていなかったり、良い指導に巡り会えなかった場合には、中学生以降の飛躍の為の土台となる地力を身に付ける事は難しくなりますが、何と言っても中学生と違ってその強みは、豊富な練習時間が確保し易いという所にあります。
尤も、現在では私立の中学を受験する子供も多く、塾の先生から「いつまでピアノなんかやっているのですか。早くやめて勉強に集中するように。」という指導も多いと聞いておりますので、こちら側からは、「ピアノが上手な子供には、頭も良い子供が多い事をご存知ですか。」と、少し打ち返しておく必要があるのかもしれません。
この頃までに、一生ピアノを友として大切にしていける為の技術的な基盤づくりと、ピアノに対する愛情、又は自負心などを育てたいものです。それまでの正しい努力が一定の実を結ぶ、楽しみな時期でもあります。
あと、音感などは世間で言われている通りなので、ここでは詳しくは述べませんが、大体小学1年生が終わる頃までが、一番伸びる時である事に間違いはありません。
今回私が皆さんにお伝えしたい事は次の通りです。
「何事にも最も適した時期、タイミングというものがある、その時が来るまでは、機嫌良く当たり前の事をきちんと積み重ねて行き、時期が来たら大輪の花を咲かせるべく、勇気を持って失敗を恐れずにチャレンジして行く、その中に未知の輝ける自分自身との出会いもあるのだと。そしてその時咲かせた見事な花は、自分自身の喜びやその後の誇りとなるだけではなく、同時に多くの人々の目を楽しませる事にもなるのだと。」
自分を引き上げてくれる幸運の女神が目の前に現れたら、勇気を持って両手を前に差し出して下さい。見た事のない素晴らしい景色を、共に見ようではありませんか。共に頑張って参りましょう!