2015.07.07
今日も雨が降りました。天気予報によれば、今週いっぱいこのようなはっきりしない天気が続くそうです。
毎年の事ながら、灰色の空が広がるこの季節は好きになれません。
若い人には何でもない雨ですが、お年寄りにとっては足元が悪く滑りやすくなるし、その上傘を持っての外出は大変だと思います。
今日は教室で一番のお姉さまのAさんのレッスン日です。
こんな雨の日は、Aさんが教室に何事もなくいらっしゃれるか、帰宅途中も滑ったりしないか心配になることがあります。
そんな私の心配を他所に、Aさんは今日もお元気そうに教室にいらっしゃいました。
「先生、これ、はい!」とレッスンバックから出した紙袋には、私が大好きな小桜のかりんとうが入っていました。
日本橋の三越まで買いに行かれたそうで、美味しい物が食べたいから遠くまで行ってしまう…と笑っているAさんの表情は若い娘さんのようです。
ところで雨が降ると思い出す生徒さんがいます。
私が大手の音楽教室に勤めていた頃の生徒さんです。私の母よりも少し年上のYさんは、もの静かな方でしたが、芯が強そうな女性でした。
足が悪くて杖を突きながら教室に通っていました。でも雨が降ると決まってレッスンは休まれていました。
杖を突きながら、傘を差して自宅の階段が降りられない、という理由でした。
Yさんは時々足を痛そうに引きずっていることもありました。それでも熱心に練習をされて、教室に通われていました。
ある日のレッスンで、Yさんとたわいないお話をしていたら 自分は骨の癌を患っている、と突然告白されました。
病気だからといって、天井を見て過ごすような毎日(床に臥せるような毎日)は嫌だから、頑張ってピアノの教室に通っている…とも仰いました。
何か月かしてYさんが、首が痛くて回らないと、辛そうにしていることがありました。
その後、精密検査を受けたら首に癌が転移していることがわかりました。
間もなくしてYさんは入院されて、レッスンは無期限でお休みということになりました。
Yさんの息子さんの奥さんが同じ教室でフルートを習っていた事から、フルートの先生もYさんの事を大変心配していました。
Yさんは火曜日の午後に教室にいらしてました。その火曜日に、教室の事務所に一本の電話が入りました。
Yさんが亡くなった、との一報は、まだ若かった私にはとんでもないショックでした。
お葬式、お通夜の日程もわからず、とりあえずYさんのご自宅にフルートの先生と一緒に行ってみました。
こんな事をするなんて、今から考えればかなりパニック状態だったように思えます。
住所を頼りにたどり着いたYさんのご自宅は小さなアパートの一室で、鉄製の外階段が付いてました。
その階段を見た時に、胸が締め付けられるような思いがしました。
雨が降ると、降りられなかった階段…。この階段が降りられなかったんだ。
この20段もない階段。
子供の世話にはなりたくない、と一人暮らしをしていたYさん。
どこまで頑張り屋だったのでしょう。
色々な思いが頭の中を巡りました。
梅雨の長雨を見ていると、今だにYさんが思い出されます。