2020.04.07
病院の緩和ケア病棟に入院されている71歳の男性からの投稿です。
「毎週のようにフロアの一角から、上手なピアニストの演奏が響いてくる。聴いている入院患者は5人にも満たないので、私のリクエストが2曲くらい取り上げられたこともある。
移動用ベッドで毎週熱心に聴いておられた女性患者さんは、興が乗るとベッドから手を上げて指揮者の真似をされていた。選曲の好みが私に似ていて、勝手に戦友だと思い、心強く感じていた。
それなのにある日、突然熟年の夫婦が、その患者さんの花嫁姿の写真を遺影として持参し、さだまさしさんの「秋桜 コスモス」をリクエストされた。
顧みると、私の人生は芸術と縁が無いと諦めていた。だが曲がりくねった旅路の果てにようやくたどり着いた緩和ケア病棟で、芸術のシャワーを浴び続けている。ただ胸の中から、私は今幸せです、という茫洋としたこだまが帰ってくる。」