2026.02.02
シューマンの初期の作品に《ダビッド同盟舞曲集》op6があります。
“ダビッド同盟⁈” 当時のドイツにそのような同盟があったのでしょうか?
答えは「いいえ」です。
実は、これはシューマンが自身の頭の中で創作した、架空の芸術家グループなのです。
この同盟は、当時の保守的で軽佻浮薄な音楽界を批判し、新しい芸術を推し進めるために創設されました。
その主要メンバーが〈オイゼビウス〉と〈フロレスタン〉です。
オイゼビウスは夢想的で内省的、(静)
フロレスタンは情熱的で熱弁を振るう(動)。
《謝肉祭》op9の第5曲「オイゼビウス」、第6曲「フロレスタン」を聴くと、音による彼らの肖像が鮮やかに浮かび上がってきます。
2人は、熱狂と鬱を繰り返した夢見がちなシューマンの分身に他なりません。
シューマンは24歳の時に創刊した『音楽新報』の中で、対照的な性格を持つこのオイゼビウスとフロレスタンという異なるペンネームを使い分け、多面的な評論を展開しました。シューマンは優れた音楽評論家でもあったのです。
《ダビッド同盟舞曲集》では、18の楽曲すべてにオイゼビウスを表す〈E.〉、フロレスタンを表す〈F.〉、二人を表す〈 F. und E.〉、が記されており、静と動、対話と更に統合が表現されています。
とは言え、シューマンの音楽は、たとえ楽譜の中に名前のサイン〈E.〉や〈F.〉が記入されていない場合であっても、いつもこの対極をなす二人の存在が“詩情”とともにあります。
レッスンの人気曲《飛翔》であれば、出だしSehr rasch(非常に急いで)の部分は情熱溢れるフロレスタン的、続く♭5つに変わる16小節からは、夢想するオイゼビウス的、のように考えても良いのではないでしょうか。
二つの楽想はコントラストされ、随所に現れる対位法的処理によって対話し、より高みを目指して苦悩しつつも飛翔していく・・・
(因みに原題のAufschwungの意味は、非常に高ぶった感情を表し、飛んでいくことではありません)
対立するかに見えて、実は二人で一人の「オイゼビウスとフロレスタン」。
この二人の存在が、シューマンの音楽を読み解く上でとても大切な“キイワード”となっていることを、レッスンでアドヴァイスしています。