2025.10.13
かげはら史帆さんの原作による映画『ベートーヴェン捏造』を観た。
実は、映画の予告編を見て薄っぺらなコメディーか⁈と勘違いしていた。
ゴメンナサイ!
19世紀のウィーンの景色や、ベートーヴェンの部屋、ケルントナー・トーア劇場(現在は存在していない、現シュターツオパー付近)などが、残っている資料に忠実に美しく再現されており、
内容もベートーヴェンを取り巻く人々が、生き生きと描かれるなど見応えがあった。
ベートーヴェンの死後、秘書のシンドラーが作曲家を神格化し、後世の人々に伝えようとして色々と画策したという話は、研究者のみならず、クラシック愛好家にも周知の事柄だ。
耳が悪かったベートーヴェンは、会話帳を使い筆談によって周囲とのコミュニケーションをとっており、死後残された会話帳は400冊を超えていた。
しかし、シンドラーは、ベートーヴェンの英雄像にふさわしくない、と思われるものを自分勝手に判断して、なんと!250冊以上も破棄してしまったのだ。
そして残されたものはたったの137冊!
しかもそこには、シンドラーがこっそり?!書き足したと思われる箇所が多数存在する。
平凡社『ベートーヴェン大辞典』によると、学問研究によって、シンドラーが書き込んだ箇所は、現在すべて判明しているようだ。
これはもう、音楽学やベートーヴェン研究の進んだ今の世では、“犯罪”としか言いようがない。
映画の後半では、当時それを見抜いたアメリカ人研究者セイヤーとシンドラーの対決が、息詰まる盛り上がりを見せて、見事だった。
セイヤーの人生をかけたベートーヴェン研究の成果は、その後、音楽学とベートーヴェン研究の基礎となり、今現在、私達に大切な情報と示唆を与えてくれている。(写真)
この映画を観て、その事に今更ながら思いを馳せた。